売上・利益最大化を企図した競争戦略
- 澤拓磨 TS&Co.代表取締役 兼 最高経営責任者(CEO)
- 4月9日
- 読了時間: 7分
更新日:7 日前
概要
KPIツリー・KPIマネジメントを通じた事業管理手法は「管理」には有用だが「結果」には必ずしも直結しない。競争戦略のないまま「管理」に偏重し、現場営業パーソン等の生産性向上を追求するだけでは、現場営業パーソン等の疲弊は避けられず早晩限界を迎えることとなる
売上・利益最大化を企図した競争戦略を立案する際には、競争戦略思考と事業デュー・ディリジェンス(以下、事業DD。)思考の違いを理解し、併用することが有効
競争戦略とは、事業当事者が平時・有事を問わず検討する、当該事業が属する業界における競争で勝利するための戦略。目的は、自社が目標とする定量・定性パフォーマンスを実現するために当該事業が属する業界における競争で勝利すること
事業DDとは、M&A等のコーポレート・アクション時に買手・投資家が有期限内で実施する事業監査のこと。目的は、当該投資対象の売上・EBITDA・営業利益の蓋然性を見極めること
競争戦略と事業DDの本質的な違いは、「競争勝利を前提とするか否か」、「可能性創出か蓋然性評価か」、「内製か外注か」の3つ。違いを理解し、競争戦略と事業DDを併用していくことで、両思考の利点が両立した競争戦略を立案できる
売上・利益最大化を企図した競争戦略の要諦は、「目標は売上・利益最大化であり競争勝利に執着しない」、「基本が先、応用が後」、「最終アウトプットはシンプルな行動集と事業計画」の3つ。要諦をおさえた競争戦略思考と事業DD思考を併用した競争戦略を立案し、実行することで、売上・利益向上が見込めるものとTS&Co.は考えている
KPIツリー・KPIマネジメントの限界
昨今、事業責任者が売上・利益最大化を企図し、既存顧客・離反顧客・新規顧客毎に、売上高を単価×数量、さらに数量を因数分解し、単価×数量(見込客数×購入率×1回当たり購入商品数)等とKPIツリーとしてまとめ、それを管理していく(KPIマネジメント)事業管理手法が一般化した。しかしながら、この事業管理手法は「管理」には有用だが「結果」には必ずしも直結しない。
そもそも、当該事業が属する業界はどのようなバリューチェーンで構成され、業界の主要成功要因(KSF: Key Success Factor)は何か、どの程度のプレイヤーが競争に参加しており、どのプレイヤーがマーケット・リーダーなのか。競争環境に対して、規制変更やテクノロジーの進展はどのような影響を与え、顧客・サプライヤー・新規参入事業者・代替品提供事業者はどのような動きをしており、結果、競合と自社はどのような競争戦略を実行しているか。自社の競争優位性とは何か。
こうした競争戦略のないまま「管理」に偏重し、現場営業パーソン等の生産性向上を追求するだけでは、現場営業パーソン等の疲弊は避けられず早晩限界を迎えることとなる。
著者自身も、TS&Co.グループの経営や顧客に対する経営変革支援及び戦略コンサルティング・サービス提供の現場にて、このことを日々痛感している。
そこで、本論考では、売上・利益最大化を企図した競争戦略の要諦について紹介したい。
競争戦略思考と事業DD思考の違いと併用
売上・利益最大化を企図した競争戦略を立案する際には、競争戦略思考と事業DD思考の違いを理解し、併用することが有効だ。
競争戦略とは、事業当事者が平時・有事(期初の事業計画立案時や競争環境の著しい変化が見受けられた時等)を問わず検討する、当該事業が属する業界における競争で勝利するための戦略のことを指す。目的は、自社が目標とする定量・定性パフォーマンスを実現するために当該事業が属する業界における競争で勝利することだ。
事業DDとは、M&A等のコーポレート・アクション時に買手・投資家が有期限内で実施する事業監査のことを指す。目的は、当該投資対象の売上・EBITDA・営業利益の蓋然性を見極めることだ。そして、その結果をもとに、更なる売上向上策やシナジーについても事業計画として定量化することが多い。
では、競争戦略と事業DDの本質的な違いは何か。
競争勝利を前提とするか否か
競争戦略は、事業が属する業界における競争で勝利することを目的とした競争勝利を前提とした戦略だ。一方、事業DDは、あくまで投資対象の売上・EBITDA・営業利益の蓋然性を見極めることを目的に、更なる売上向上策やシナジーについても検討していく必ずしも競争勝利を前提としない取り組みである。
従って、事業DD経験豊富な人材に、劣勢な競争環境を打破する秀逸な競争戦略を求めたとしても、必ずしも期待した成果物が得られる訳ではない。
可能性創出か蓋然性評価か
競争戦略で思考すべき対象は、どうすれば競争に勝利できるか?といった「可能性」である。一方、事業DDで思考すべき対象は、本当に当該事業は持続的に売上・EBITDA・営業利益を創出できるか?といった「蓋然性」だ。
従って、競争戦略と事業DDでは、同じ事業の戦略について考える取り組みではあるものの似て非なるものである。
内製か外注か
競争戦略は、事業当事者が平時・有事を問わず検討する必要のある戦略で、戦略立案機能は内製されていることが一般的だ。一方、事業DDは、M&A等のコーポレート・アクション時に買手・投資家が有期限内で実施する事業監査であり、事業DD如何で多額のお金が動く可能性があり資本市場への説明責任も求められることから、事業DDの組織能力を内製化していない企業を中心に、事業DDに熟達したプロフェッショナルからの客観的な事業監査を受けるべく、外注されることが多い。
売上・利益最大化を企図した競争戦略立案時には、こうした競争戦略と事業DDの本質的な違いを理解し併用していくことで、両思考の利点が両立した競争戦略を立案できるとTS&Co.は考えている。
競争戦略思考と事業DD思考を併用した競争戦略の要諦
では、売上・利益最大化を企図した競争戦略思考と事業DD思考を併用した競争戦略の要諦とは何か?、TS&Co.の考えを紹介したい。
目標は売上・利益最大化であり競争勝利に執着しない
競争戦略というと、事業が属する業界における競争に必ず勝たなければいけないと考えるかも知れない。しかしながら、目標はあくまで売上・利益の最大化であり、目標が達成できる・できているのであれば競争に勝つことに必ずしも執着する必要はない。
例えば、競争を意識し、過度に差別化や一点集中を図り競争優位性を確立しようとするが故に、いたずらにターゲット市場規模を狭めてしまうことがある。結果、事業当事者が参入すべき・参入しているべき市場としての魅力を失ってしまっては、本末転倒だ。
基本が先、応用が後
競争戦略の応用理論として、例えば、ブルーオーシャン戦略やランチェスター戦略等、特定コンセプトで競争環境において高いパフォーマンスや競争優位なポジションを築こうとする理論が存在する。
しかしながら、当該応用理論から競争戦略を思考することは避けたい。先述した、業界バリューチェーン、業界KSF、競争に参加しているプレイヤー数と市場ポジションをはじめ、競争環境における政治・経済・技術動向の影響、顧客・サプライヤー・新規参入事業者・代替品提供事業者等の動向、競合と自社の競争状況等をまずは俯瞰する。そのうえで、必要に応じて、応用理論より最適解を選択していくのだ。
最終アウトプットはシンプルな行動集と事業計画
売上・利益最大化を企図した競争戦略の最終アウトプットは、シンプルな行動集と事業計画だ。
売上・利益を最大化するには、具体的にどのような行動をし、その結果、どのような定量インパクトを創出できるのか。その観点から、必要最小限の行動集に取りまとめ、事業計画として定量化したい。
以上、要諦をおさえた競争戦略思考と事業DD思考を併用した競争戦略を立案し、実行することで、売上・利益向上が見込めるものとTS&Co.は考えている。
著者
澤 拓磨(さわ たくま)
TS&Co.グループホールディングス株式会社 代表取締役 創業者CEO
TS&Co.株式会社 代表取締役
経営変革プロフェッショナル
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